正しい脱税のやり方 (20.05.2016)

"Dividende"。なんと響きのいい言葉だろう。響きがいいので日本語でもう一度、「ディビデンデ」。一度聞いてだけで覚えてしまう言葉の一つで、日本語の配当金に相当する。貯金してもほとんど利子がつかず、株主優待という思想がないドイツでは、年に一度支払われる配当金が、財蓄の唯一の方法で大きな楽しみだ。しかしその楽しみも、801ユーロまで。この額を超える配当金、あるいは株を売ってこの額を超える利益が出た場合、"Abgeltungssteuer"という税金が課せられる(いずれ変更される予定です)。日本は株の売却利益にかかる税率がわずか10%と極端に低くかったが、現在では20%に復活した。それでも世界的に見ればまだ安い。ドイツでは25%+東ドイツ復興税、それに教会税(教会に登録している人に限ります。)が差し引かれ、結局28~29%も税金が引かれてしまう。しかし物は考えようで、ドイツでは所得税率が42%とお高い。日本のように段階課税をするわけではなく、最初の1ユーロからがっつり42%もの高い所得税率が採用される。すなわち真面目に労働して得る所得よりも、金を投資して得た所得の税率の方が低く、金持ちが優遇されることが問題になっている。

それでも「税金を払うのは嫌だ。」と外国の税金天国に口座を設けて、ここで投資していた金持ちが多かったが、AIA協定の締結、さらにはパナマの税金天国を初めとした情報の漏れで、金持ちは眠れる夜を過ごすことになった。ところがわざわざ脱税天国にトンネル会社を設けなくても、堂々と合法に脱税ができる方法がある。この合法なトリックは"Cum/Cum-Geschäfte"という。

ドイツでは株主総会で配当金が株主に承認されて、配当金の金額が決定、翌日に配当金が支払われる。そして配当金が支払われると、801ユーロを超える場合、銀行が自動的に税金を引く。これを避けるには株主総会の直前に、この株を銀行に「空売り」すればいい。すなわち帳簿の上では株は銀行の所有になるので、銀行が配当金を全額受け取り、まずは25%+の税金を払う。ところが銀行は、この税金から解放されているので、後から税務署から払った税金を取り返せる。税金を取り戻した後で、銀行は空売りで預かった株と配当金を本来の持ち主に返却する。株主はこうして丸々配当金を手中にする事ができる。もっともすべて無料というわけではない。銀行はこの取引の手数料として配当金の5%(程度)を取る。そしてこの脱税は、合法なのだ。正確に言えば、「違法ではない。」と言った方が正確だろう。ドイツ政府はこのような取引があることを知っていながら、「あまり厳しくすると、ドイツの会社に投資してもらえない。」と大口投資家の機嫌を損なうことを心配、法律の抜け穴があることを知っていながら、この穴を埋める努力を放棄した。

しかしかるに財務大臣は脱税を防ぐため、「現金での支払いは上限と5000ユーロまでにする。」と言い、欧州中央銀行は、「500ユーロ札は犯罪と脱税に使われるので廃止する。」と決定したり、個人の脱税を防ぐことに熱心だが、大口投資家には別の定規を使用している。その一番の例が政府が2008年に税金を投入して破綻から救ったCommerzbankだ。この銀行はとりわけ"Cum/Cum-Geschäfte"に熱心で、税金で救済されたお礼に大口投資家の脱税を助け、国と納税者に数百万ユーロもの被害を出している。この問題について聞かれた財務大臣は、「頼りになる数字がないので、問題があるとは言いかねる。」と逃げた。国がこの銀行の15%の株式を保有する最大の株主であるのに、この有様だ。ちなみにこの銀行は"Cum/Cum-Geschäfte"の他に、"Cum-Ex-Geschäft"を用いて脱税を手助けしたことでも責任を問われている。

"Cum-Ex-Geschäft"は外国の投資化家が株主総会の日に、数回の空売りを行う方法だ。持ち主を何度変えても配当金は1回しか支払われないし、税金も一度しか支払われないが、この配当金にかかる税金の支払い明細は、この日に株の持ち主になった数人の持ち主に発行される。すなわち実際に税金を払ったのは一人だけだが、税金支払い明細が複数存在することになる。あとはこの税金支払いの明細を税務署に提示すれば、外国人の投資家はドイツ人の投資家よりも低い税率が採用されるので、大目に払った税金の返還を求めることができる。こうして一度だけ支払われた税金に対して、株主は税務署に対して、数回も税金の返却を申請する。ドイツの税務署は機械のように機能しているので、一つの株に対して複数の税金の返還要求があがっても、一向に不審に思わない。役人が関心があるのは書類だけ、書類があれば税金が還元される。この法律の抜け穴は2012年に閉じられたが、法律の穴が閉じられるまで数百万ユーロの金が大金持ちに支払われたと見積もられている。

そこで政府はこの方法で不法に返還された税金は、過去5年前までに遡って返還請求できると法律を設定。その後、"Cum-Ex-Geschäft"で大金持ちの財築を助けた銀行を訴えている。スキャンダルが絶えることのないドイツ銀行やCommerzbankはい言うに及ばず、半民半官のDekabank、さらに州立銀行までこの脱税に関わっており、脱税の沼はかかなり深い。とりわけ銀行のモラルの欠如を示すのがDekabankの件だ。この銀行は2010年だけで"Cum-Ex-Geschäft"の税金返却額として5300万ユーロの還元要求をヘッセン州の税務署に挙げていたが、税務署はこれを違法な請求だとして拒否。同銀行は税金の返還を求めて、税務署を裁判所訴えるという恥知らずな行為で名を馳せたが、この2月に見事に敗訴した。

「それじゃ、まだ合法なうちに銀行に頼んで、"Cum/Cum-Geschäfte"で税金を節約しよう!」とお考えの方、急がないとあまり時間がない。政府は上述の通り見て見ぬフリをしていたが、メデイアで毎日のように報道されてしまった。野党の政治家は、「税金で破綻から救ってもらい、そのお礼に脱税の手助けをするなんて許せない。」と発言、人気を博した。こうして脱税の抜け穴を故意に維持している政府への圧力が高まった。なにしろ来年は総選挙の年だ。そこで政府は重い腰をあげて"Cum/Cum-Geschäfte"を法律で禁止する意向だ。とは言っても今、まさに配当金のシーズン。政府の対応が効くのは来年の配当からだ。結果、今年も多額の税金が違法に支払われないままになりそうだ。と思っていたら悪評を一身に受けたCommezbankは世論の圧力に負け、「"Cum/Cum-Geschäfte"はもうやらない。」と声明を出した。世論からボロボロに叩かれないと悪習から抜け出せないのは、何処の国の銀行も同じようだ。

編集後記
ドイツ政府は"Cum-Cum-Geschäft"の対抗策として、配当金が支払われる日の前の45日、配当後の45日、合計90日以上、銀行が株式を所有している場合に限り、銀行は払った税金の還元を求めることができるとする法律案を作成した。この法律によって"Cum-Cum-Geschäft"をなくすることはできないが、90日も株を所有していると株価の変動のリスクが高くなり、銀行、そして合法的に脱税してお金を稼ぎたい投資家にとって、魅了が減る。しかし魅力が減るということは、ドイツの株へ投資する魅力の減少にもつながりかねず、手数料で儲けしている銀行業界はこの法律案に大反対している。ドイツの銀行ロビーは、米国のライフル協会のように政治への影響力が強く、この法律案が法律になる前ににスイスチーズのように穴だらけになりそうだ。


違法行為しただけでは済まず、裁判所に訴えたDakabank。
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