„Equal Pay“ (30.05.2016)

日本では自説に正当性を与えたいときに、「欧米では当たり前になっている。」という言葉が好んで使われる。ほとんどのケースでは調べもしないで、「欧米では。」と言っているので、そのような主張は信用しないほうがいい。面白いことに、「中国では当たり前になっている。」と言うと全く効果がないどころか、逆効果になる。しかし欧米で行われていることが正しいなんて、誰が決めたのだろう。2015年、阿部首相は、「欧米では雇用形態としての派遣がますます重要になっている。」と論拠、これまで3年に制限されていた派遣の期間を廃止、労働者の生活を省みず、企業に安い労働力を供給することを決定した。首相は、「これは派遣労働者のスキルを上昇されるきかっけになる。」とさらに無茶苦茶な理論を展開した。一体、派遣の安月給でこき使われて、どうやってスキルをあげるのか。誰もこの点を追及しないのが、とっても日本的。

阿部首相が主張する、「欧米ではますます重要になっている派遣。」だが、ドイツでは派遣に非難が集中している。同じ職場で正規労働者と派遣労働者が同じ仕事をこなしているのに、給与が異なるのはおかしい。さらにはちゃんと職に就いて毎日働いているのに、派遣で給料が低く、国から補助金を得ないと生活できないなんてことが、先進国のドイツでまかり通ってよいものか?しかし政権にあるCDUは大企業から政治献金を受けているので、派遣を制限することにはおよび腰だ。しかし、「派遣は労働者のスキルを挙げる絶好のチャンスだ。」と派遣を擁護するような発言はしない。そんな発言をすると、「じゃ、どうやってスキルを上げるんですか。」と聞かれ、大恥をかくからだ。合理的な考えをするドイツ人相手に、日本特有の論拠を展開しても、調査捕鯨の論拠が理解されないように、日本を出てしまうと通用しない。元来、派遣は急な受注で抱えた仕事を処理できない場合に、短期的に人材を増やしてこれに対応するものだ。会社が人件費をダンピングするために発案されたものではない。

会社のマネージメントは、「しかし派遣がないと、会社は赤字になってしまう。」と派遣の必要性を主張する。トヨタを始めとる大企業が過去最高の経常利益を上げ、取締役役員は労働者の50倍~という法外な給与を手中にしているのに、「派遣がないとやっていいけない。」なんてよくも顔を赤らめもせずによく言えるものだ。安部首相曰く、まずは会社が儲かることが大事だという。会社が儲かると労働者の給与アップにつながり、社会に金が回るようになりデフレが解消、景気が回復すると主張した。ところが景気は回復するどころか、停滞している。会社、それも大企業の業績が改善しても、労働者の給与は停滞したままだ。さらに下請け会社が全く恩恵にあずかっていない。幅広い中間層の給与が上昇しないので、将来が不安で消費を控える。その結果、お金は社会に循環せず、一部の富裕層だけが得をしている。「欧米では当たり前」という経済論理(アベノミクス)が、うまく行くわけがない。肝心なのは低、中間所得層の所得を上昇させることだ。この層にお金が循環してくれば、一部の高級品ではなく大量消費製品を消費してくれるので社会に金が回る。アベノミクスは上から下にお金を循環させようとしたが、お金は上に留まったまま。経済を活性化されるなら、下から上、すなわち低、中間所得層を優先すべきだ。

ドイツでは派遣は1971年まで禁止されていた。以降、雇用者/企業の要求で禁止が解かれたが、厳しい条件が課されており、派遣という雇用体系が大きく広がる事はなかった。2003年、政権にあった社会民主党はドイツの高い人件費を下げるため、派遣に課されていた厳しい制限をあっさりと取り払った。以降、企業は新しい職場を人件費が安くあがる派遣で済まし、製造費用を下げると、会社の収益率は大幅に改善した。お陰でドイツの大企業はかってない経常利益を記録したが、これを可能にした労働者は、働いた給料では生活できない苦境におかれたままだ。「好景気に沸くドイツ」と日本では報道されるが、表面だけの報道に終わり、これを可能にした労働者がどんな待遇に置かれいるか、調べようとはしない。派遣の欠点を補足するために最低賃金が導入されても、人材派遣会社は何か理由を見つけて法律で定められた時給8.50ユーロを払おうとしない。

ドイツの社会の「ひづみ」が最もよくわかる例が、"DHL"、"DPD"、"GLS"、ヘルメスなどの宅急便の配達員だ。契約では38,5時間の労働時間だが、その時間内にすべて配達できるものではなく、2~3時間程度の残業は当たり前だ。残業代の支払いを要求すると、「あなたの仕事の要領が悪いから、時間内に済まないのだ。」と言われ残業代はピンはねされる。その他にも、派遣社員の元々低い給料からは就職先の手配費用、斡旋会社への登録費、税理士費用などが毎月の給料からピンはねされる。「これでは生活できない。」と言うと、「生活保護を申請すればいい。」という返事が返って来る。結果、ちゃんと仕事に就いているのに、生活保護を受けている"Aufstocker"の数は毎年上場、2015年には59万人を突破した。

日本では社会的弱者は、見て見ぬフリをされる。カンボジアならまだわかるのが、あれほど多くの路上生活者がいるのに、政治は、「ここにテントを張ってはいけません。」と張り紙を出す程度で、面倒を見ようとしない。ドイツでは仕事をしているのに、派遣のため、生活保護を申請しないと生活できないことが社会問題になった。先進国のドイツで、あのような搾取が許されていいのか。企業の社会的責任は何処にあるのか。そして市民の怒りは、派遣の制限を取り払い、年金を(一部)民営化して老後の生活を心配の種にした社会民主党に向けられた。かっては40%もあった支持率が、20%まで低下した。そして来年はいよいよ総選挙だ。選挙の行方を心配した社会民主党は連立与党のCDUを説得、派遣を制限する法律案 „Equal Pay“を作成した。案によると派遣期間は、期間の制限がなくなった日本とは正反対に、18ヶ月までに限られる。その後は派遣労働者を正規に雇うか、派遣されている労働者を解雇しなければならない。言うまでも無く、「じゃ、18ヶ月以降は別の会社から派遣してもらう。」という子供だましの手は使えない。さらに9ヶ月以降は、正規の労働者と同じ給与を支払うことが義務となるので、雇用者にとって派遣で実験費を節約できるのは8ヶ月までに限られる。こうして派遣労働者も、同じ職場で働く正規の労働者と同じ給与、 „Equal Pay“をもらうことが可能になる。

ただしこの法律案にも抜け穴がある。ドイツで頻繁に利用される派遣期間は3ヶ月までなので、この法律が施行されても大半の労働者は、この法律の恩恵を受けることがない。こうした抜け穴があるにせよ、派遣期間の上限が定められたことは評価できる。日本では全く逆の方向に動いているのだから。この法律が施行されれば本来は正規の社員を雇うべきなのに、派遣で済ませる会社の悪習に歯止めがかかる。今後、新しい政権が誕生して、法律を改正して上限をさらに短くすることに期待したい。ドイツで人材派遣会社に登録されて、日本企業、あるいはドイツ企業で働いている方にも、この法律(国会を通過すれば)は採用される。すなわち遅くても9ヵ月後には、正規の社員と同じ給料をもらえるわけだ。この規則を守らない会社に勤務している方は、弁護士に頼んで労働裁判所に訴えを出してもらえばいい。ドイツで働いているのにまだ弁護士保険に加入していない方は、早めに保険に加入しておこう。

自ら取り払った派遣の制限の再導入を目指すSPD。
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