航空業界再編製 (11.10.2016)

ドイツ第二の規模を誇る航空会社、エアベルリンに巨額の投資を行い同社を破産の憂き目から救っていたエア エチアドの我慢の緒がついに切れた。アラブ人は、幾ら金を与えても一向に厚生しない駄目息子のエアベルリンを、ばら売りすることにした。こうしてドイツの航空業界は再編成に向けて一気に動き出した。

航空業界の再編成と言えば、欧州最大の航空会社であるルフトハンザをなしには語れない(注1)。以前ここで紹介した通り、ルフトハンザは"Germanwings"ではなく、"Eurowings"を同社の格安航空会社に抜擢、ケルン空港(ケルン市の郊外にあるのに、正式名所はケルン ボン空港という名前で呼ばれている。面倒なのでここではケルン空港と略。)をその本拠地として、ライアンエアーや"Easyjet"に戦いを挑む。ケルン空港からバンコクまで199ユーロという値段で、これまで格安航空会社やアラブ諸国の航空会社に奪われた乗客を取り戻す意図だ。ただしまだ規模、路線が少なすぎて、情勢挽回には遠い道のりだ。そこでライバルであるエアベルリンのばら売りが明らかになると、ルフトハンザは真っ先につばをつけた。

ルフトハンザはエアベルリンの本拠地であるデユッセルドルフとベルリンを除く空港からの便、合計40便を乗務員付きでリースする。これによりルフトハンザは、ライバルの格安航空会社に抵抗できる路線数を持つことになる。勿論、オイロウイングスが独自の航路を開拓することもできたが、買収(正確にはリース)の方が格段に早く、費用も安上がりだ。何よりもエアベルリンという競争相手がいないので、高い集客率を期待できる。さらにはドイツ第二の利用客数を誇るミュンヘン空港発の国内線は、ルフトハンザの独占路線となる。ルフトハンザが飛びついたのも無理はない。

この取引はエアベルリンにも大きな利点がある。同社はこのリースにより、1億2000万ユーロのリース料を見込んでいる。万年赤字のエア ベルリンにとって、飛行機を飛ばさなくても手に入る1億2000万ユーロは、この上なくありがたい。このリースは10月31日から実施されるので、(例えば)ミュンヘン空港から飛ぶエアベルリンのフライとを予約された方は、エアラインから連絡がある筈だが、実質上何も変わらないので、心配しなくてもいい。それどころか、「エアベルリンが倒産したら、飛行機が飛ばない。」と心配をしなくて済む。

さらにルフトハンザはかってのベルギーの国営航空、サベナの倒産後、"Brussels"航空会社の株式の45%を買収していたが、残る55%も買収して、完全な子会社にすることを決定した。買収後、"Brussels"の名前は完全に消えて、オイロウイングスの名前で運行される。こうしてルフトハンザはオイロウイングスの路線を9月末の1週間だけで飛躍的に増幅させた。航空機の数で見れば、業界最大手のライアンエアー、第二のEasyjetに続き、第三位の地位に躍進する。

ルフトハンザがこのように大急ぎでオイロウイングスの路線を拡大しているのには、理由がある。ルフトハンザは日本の(元)国営航空会社のように、格安航空会社を見くびっていた。結果、オイロ ウイングスは、ルフトハンザの中で義理の母のような扱いをされており、その名前(存在)を知るのは、出張であちこち飛ぶビジネスマンか旅行代理店の人間くらいだった。ところが原油安にもかかわらずルフトハンザが大赤字を出している中、格安航空会社のライアンエアーは巨額の黒字を計上、「儲かって仕方がないので、チケット代を値引きする。」と発表すると、頭の固いルフトハンザの上層部にもやっとわかった。高いルフトハンザのチケット代金では格安航空会社に全く勝ち目がない。これが原因で、これまではライバルであったエア ベルリンと共同戦線を張ることにした。

一方、エアベルリンの親会社であるエチアドは、エアベルリンの子会社でオーストリア国内で就航している"NIKI"も、売却することにした。売却先は欧州最大の旅行会社"Tui"だ。"Tui"自体、"Tuifly"の名前の下に41機の航空機を持つ航空会社を運営していたが、規模が小さ過ぎる。そこで"Tui"で旅行を申し込むと、ほとんどのエア ベルリンのフライトと一緒になったパッケージ旅行だった。独自の路線を就航しても、競争が激しいので、黒字になるかどうか疑わしかったからだ。しかしここでエア ベルリン(正確にはNiki)の買収となれば、市場にぽっかり穴が開くので採算が取れる確立が高い。さらにこの買収により、これまではエア ベルリンを使っていた客を、自社の航空会社を使用して、ウイーン経由でアジア、アフリカ、中東に送り出せる。さらには合併後の会社の本社(登記)をウイーンに移せば、ドイツの厳しい労働者保護の法律に縛られない。市場の状況に合わせて、乗務員を雇用、解雇できる上、かってはフランスの名物であった乗務員のストも、ドイツのように簡単にはできない。会社は労働者に対して圧倒的に強い立場を確保、労働組合に恐喝されなくて済む。そして数の上ではエア ベルリンを抜いて、ドイツ第二の航空会社に躍進する機会でもある。

このニュースを聞いた"Tui"の社員は急に気分が悪くなった。会社が外国に移されてしまうと、ライアン エアーのような安月給でこき使われて、病気になるとお給料も支払われずクビになることを恐れた。ストをして抗議しようにも、外国の法律ではそう簡単に行かない。勝手にストをすると 飛行機が飛ばないために発生した賠償金の支払い義務が発生するからだ。このニュースは、"Tui"の社員にはあまりにも衝撃的であった。翌日から社員が軒並み病欠を申請した為、"Tui"はほとんどのフライトをキャンセルする事態に発展した。会社側は正規にお休み中の社員の中から志願者を募り、さらにエア ベルリンに乗客を移すなどしたが、焼け石に水だった。日本人なら解雇される人も最後の日までちゃんと働くが、ドイツではそんな日本の常識は通じない。解雇される、あるいは解雇される危険がある場合は、集団病欠を使用して会社に圧力をかける。今回もこの圧力が功を奏した。会社側は会社の本拠地を今後3年間はどこにも移さず、お給料も3年間は新しい会社の給与体系ではく、"Tui"の給与を支払うと発表して、ようやく病気が回復の兆しを見せた。

話しをエア ベルリンに戻そう。ばら売り後、エア ベルリンに残るのはたったの35機のみ。これだけ会社が小さくなれば、とりわけデユッセルドルフとベルリンに集中する以上、ミュンヘン空港やケルン空港などの地上勤務員も必要なくなる。そこでエア ベルリンはさらなる1200人の解雇を発表した。規模を大幅に縮小したエアベルリンは、「2018年こそは黒字の年になる。」と宣言しているが、実に怪しい。エア ベルリンが黒字を計上したのは、2012年の一回のみ。以降、「来年こそは。」と唄ってはきたが、これまで一度も成功していない。果たして親会社は、2018年が終わるまでまるまる2年も待ってくれるだろうか。エア ベルリンの株価はばら売りの影響で60セントから70セントに上昇したが、かっては20ユーロもした株価なので、状況はそれほど改善したわけではない。もし2018年も相変わらず赤字で終われば、この航空会社の倒産は避けられそうにない。



病欠に付き欠航。
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注1
2016年の利用者数の統計が出た。これによるとライアンエアーを利用したのは1億2100万人で、ほぼ日本の人口と同じ数の利用客数だった。一方、ルフトハンザは1億9百万人。当初は笑われていた格安航空会社が、欧州最大の航空会社に成長、ルフトハンザを追い越してしまった。ルフトハンザが格安航空会社に力を入れるのも、無理はない。
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