オペル売却  (15.03.2017)

ドイツの自動車メーカーなのに、「えっ、ドイツ車だったの?」と日本でも認知度の低いオペル。滅茶苦茶なコストカットで品質が悪化、売り上げが低迷、2004年には大きな危機を迎えて倒産寸前まで行った。ここではまだ親会社のGMがオペルを財政支援した。なにせGMとオペルの関係は古く、なんと1929年代からGMはオペル社の株を所有、ナチスが政権をとっても、米国と戦争になっても、この関係は解消されることがなかった。2007/8年の金融危機に続く不況では親会社のGMの経営が傾いたが、米国政府の財政支援を受けて生き延びた。親会社が倒産の危機にあると子会社のオペルでも犠牲を強いられて、ボッフムにある組立工場を閉鎖するなどの犠牲を強いられた。

「しばらく何も聞かないので、会社は更生したんじゃないか。」と思いそうだが、オペルは未だに赤字を出している。四半期で黒字を出すことはあっても、年間で見れば過去20年間、赤字を出し続けている。その理由は車の品質ではなく、販売、そして生産台数にある。販売台数は増大傾向にあるものの、2016年の同社の販売数は、英国の子会社とあわせても77万台。利鞘の高い高級車のBMWが240万台。利鞘の低いモデルでは、100万台未満の販売台数では儲けが出ない。だから海外で販売したいのだが、海外でオペルを売ると親会社のGMと競合することになる。そこで親会社はオペルを欧州市場だけのモデルと指定、赤字しか出せない会社にしてしまった。

2016年は自動車メーカーにとって、会社史上、かってない高額の利益をもたらした年となった。勿論、排ガス操作で目玉の飛び出るような罰金を払ったフォルクスワーゲン社、燃費操作で販売不振に悩む三菱などは除く。オペルの親会社のGMも、政府の財政援助で会社を救ってもらってから見事に復活、大きな黒字を計上した。この大きな黒字を利用して、GMは1929年から続くオペルとの関係と終焉させることにした。

過去、何度かオペル売却の話が持ち上がったが、最終段階で頓挫した。その理由のひとつは、ドイツ企業特有の会社年金にある。労働者は毎月、会社の年金基金にお給料を払い込み、定年退職するとここから年金が支払われる。俗に言う企業年金で、これは公的な年金よりも利回りがいい。が、会社にとっては財政的な負担になる。会社が会社年金の掛け金を一部負担する上、社員が払った掛け金に税金がかかるからだ。オペルを買収すると、この企業年金の問題も一緒に背負い込むことになる。これが買収を難しくしていた。オペル自体がまだ黒字を出してないという事実も、買収を難しくしていたのは言うまでもない。

GMは会社の巨額の黒字を利用して、この企業年金をGMが引き続き管理して年金を払うことで、オペルという苦い薬を飲みやすくすることにした。GMが買い手として選んだのは、フランスのPSA。わかりやすく言えば、プジョーとシトロエンの会社だ。2014年、PSAは販売不振に陥りフランス政府から財政支援を受けて、倒産の憂き目から救ってもらった。日本と違い、ここで腕利きのマネージャーが経営を引継ぎ、生産体制を刷新、効率の悪い工場を閉鎖するなど痛みの伴う改革を実施した。その甲斐あってPSAは2016年、324億ユーロもの巨額の黒字を出した。この黒字があれば、会社の増資をすることなく、オペルを買収できる。さらにPSAとGM、すなわちオペルはこれまで自動車のシャーシーを共同に使用しており、GMと「顔見知り」だったことも、オペルの売却先としての候補にあがることになった。

PSAは電気時自動車の開発で、遅れをとっていることも、この買収を可能にした。オペルはすでに電気自動車を販売しており、走行距離が520Kmと日本の電気自動車と大差ない性能を有してる。将来、電気自動車が内燃エンジンにとってかわることが避けられない今、この技術は喉から手が出るほど欲しい。このような背景があり、2017年3月6日、GMはPSAにオペルを130億ユーロで売却すると発表した。GMが今後も企業年金を引き継ぐことを考えれば、赤字を出している会社でも、この売却値段は安い。北米市場でオペルを販売しないという約束が、この安い値段を可能にしたのかもしれない。又、GMはこの売却でオペルの資産価値を下げざるをえず、次期の四半期の決算では赤字になる可能性がある。しかしこれまで20年も赤字しか出さなかった子会社の売却は、株式市場でポジテイブに評価された。

買収が正式に発表された後の記者会見で、PSAの社長は驚くほど率直に、「オペルを買収することにより、フランスの車を買いたくない人に選択肢を提供できる。」と買収の理由を語った。流石、敏腕社長。綺麗な言葉で誤魔化さないで、はっきりと真実を語る。ドイツにはまだ3つの大きなオペルの組み立て工場があり、ドイツ政府はこの買収により工場が閉鎖されて大量に失業者が出ないか、大いに心配している。そこで買収前にメルケル首相が介入、GMがオペルと約束している「2018年まで工場は閉鎖しない。正社員の解雇もしない。」をPSAがそのまま引き継ぐ保障を要求した。PSAはこの要求を呑むことに同意したが、2018年と言えばたったの1年で、事実上は「来年からは好きにできる。」という通行手形を与えたに等しい。PSAで会社の体制を刷新した敏腕社長の事、ドイツで同じような処置を取ることに躊躇しないだろう。
          
オペルの労働者は、この買収がオペルに何の相談もなく、頭ごなしに行われたことに憤慨していると同時に、「何処の工場が閉鎖されるか。」とドキドキしている。しかしPSA自体が工場閉鎖により会社を黒字に転換、他の会社を買収するほどまでに経営が好転したことを考えれば、この売却はオペルにとって転換点になるかもしれない。PSAはオペルをインドや中東市場で販売することを考えており、販売台数が伸び選ればオペルが黒字を出すことになるやもしれない。そんな日が来れば、早くても4~5年先だろうが、オペルが未来が確保されることになる。


Salut, Opel!
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編集後記
国をまたぐ大きな企業の買収になると、政府、この場合は欧州(EU)委員会からの許可が必要になる。グーグルのような大企業が誕生して市場を独占、「好き勝手」にその立場を乱用しないように監視する必要があるからだ。その委員会が7月上旬に買収を許可した。「PSAがオペルの買収しても、それほど大きく占有率が上がるわけじゃない。」という嬉しい(それとも悲しい?)結論に達したが故だ。これにより今月中に買収が完了、フォルクスワーゲンに次、販売台数では欧州で2番目に大きなメーカーが誕生することになる。
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