リヒテンシュタイン VS ドイツの税務局。 (22.03.2008)

「ドイツの税務局が用いる方法は、ゲシュタ-ポを髣髴させる。」とは、スイスの銀行連盟会長のコメントである。どのような背景があって、このような発言になったのか、順を追って説明してみよう。

スイスの東国境に都市国家、リヒテンシュタインが存在する。この国はモナコなどの都市国家の例にもれず、税率を低く設定していおり、別名、銀行国家、悪く言えば節税天国(脱税とは言わない。ドイツ語ではSteueroase)だ。この一件を理解するには、その節税のシステムを理解する必要があるので、又、このコラムをご覧になられているお金持ちの方のために、節税の方法をご紹介しよう。

まず必要になるのは現金。古いスーツケース(別に新しくもいいが、古い方が興味の視線を避ける事ができる。)に現金を詰めたら、リヒテンシュタイン(スイス)に飛ぶ。車(電車)でリヒテンシュタインまで移動したら、どこでもいいから銀行に出向いて、「財産管理(Vermoegensverwaltung)について尋ねたい。」と言えば、ふかふかの絨毯がしきつめられた部長の部屋に通される。あとはスーツケースを開いて現金を見せるだけでいい。銀行の外でランチを食べて帰って来る頃には、すでに書類が用意されており、あとはこれにサインするだけだ。書類にサインをすると、あなたはスイスに存在するある財団の唯一の財産管理人に指定されている。スイスの法律では、財団の管理人は名前の公開義務がないので、誰が財団の責任者であるか知っているのは、あなたとリヒテンシュタイン、スイスの銀行の担当者の3人のみ。現金が必要になったら、このスイスの銀行口座から(世界中で)現金を卸す事ができる。「自分でリヒテンシュタインまで行くのは面倒」という方は、銀行に相談すればいい。どの銀行(少なくとも欧州の)にも「専門家」がおり、リヒテンシュタインへの口座を仲介してくれる。もっともリヒテンシュタインへの「切符」は100万ユーロからと言われているので、小金持ちではなく、本当にお金持ちでなくてはならない。通訳が必要な場合は(リヒテンシュタインではドイツ語が共通語)、是非、弊社までご連絡を。

冗談はさておき、あるリヒテンシュタイン銀行の銀行で働いていた行員が、毎日大金を数えるだけで、自分の懐に入ってこない事に自然の理不尽を感じた。そこで仕事中に顧客のデータをこっそりとDVDにコピーすると、他人の金を数える仕事に愛想をつかして銀行を退職。しばらく時間を置いてから、DVD(コピー)を銀行に送りつけ、「DVDの中身を公開されたくなかったら、金を払え。」と元勤め先の銀行を脅迫。スキャンダルを避けたい銀行は、脅迫に負けて9百万ユーロものお金を払った。この脅迫犯は、そのままお金を持って高飛びすればいいものを、よりによってドイツの銀行口座から(ドイツ人の大好きな)タイの銀行口座に50万ユーロ近くを海外送金しようとして、税務署の目に留まる。(マネーロンダリングを防ぐ為、ドイツを経由するお金の流れは常に監視されている。)そんな事は何も知らない元銀行員は、ウキウキ気分で空港に行き、タイへ飛ぶべくチェックインしようとして御用となった。哀れ。

ところが、この脅迫犯は、検察に対して取引を持ちかける。DVDのコピーをまだ隠し持っていたのだ。ここで登場してくるのが、BND、ドイツの諜報機関。BNDはブツの真偽を確かめるために、DVDの一部を見せることを要求。このDVDを税務署で調べさせた結果、このDVDに載っているデータは、ハードインテリジェンス(本物の特ダネ)である事が判明する。DVDの内容に狂喜した税務署は、「何としてもDVDを全部手に入れろ!」と指示、ここでめでたく、犯人とBNDの間で取引が成立する。この48歳の脅迫犯は自由の身+420万ユーロもの現金を(今度は堂々と)手に入れてしまう。その後のこの脅迫犯の行方は不明だが、多分、(ドイツ人の大好きな)タイのパタヤーあたりで豪遊している事だろう。

この取引の最初の犠牲者となったのが、ドイツの郵便局の取締役社長、Zumwinkel氏だ。上述の方法でスイスに財団を設立。(財団を設立するのは違法ではない。これは経済活動の自由で、合法な行為である。)その財団資金から得た利益をドイツの税務署に申告していなかったので、脱税で逮捕されてしまう。元国営の郵便局を民営化した、その立役者の社長が脱税で逮捕されたのだから、ドイツでは大ニュースになった。不思議な事に、このZumwinkel氏の逮捕のシーンは生放送で全国放映された。どうも税務署は前もって新聞局、テレビ局に翌日に行われるZumwinkel氏の逮捕の情報を流していたようで、警察が現れる数時間も前にZumwinkel氏の自宅前は報道陣とカメラで埋めつくされていた。別の言葉で言えば、公開処刑。前日まではドイツ経済界のVIPとして重視されていた人物が、手錠をはめられれて自宅から連行されるシーンを全国中継で流されたのだから。この公開処刑を計画したのは他の誰でもない、ドイツの大蔵大臣だ。大臣は逮捕後に記者会見を開き、「4枚のDVDにはまだまだ数多くの名前が載っている。脱税をした者は、警察に逮捕される前に、早急に税務署にSelbstanzeige(脱税した事を認めて、罰金と払わなかった税金を払う事。)する事を薦める。」とテレビでドイツ国民を脅した。(どっちが犯罪者なのかわからない。)この脅しもZumwinkel氏の公開逮捕がなければ、DVDの実在性が疑われた事だろうが、ドイツの財界のVIPを逮捕された事で、この言葉は一気に信用性を得た。その後、財団の管理人から数億ユーロの税金がドイツの税務署に支払われたのは言うまでもない。

もし法律をかじった事のある人なら、「ちょっと待てよ。」と思われた事に違いない。この一件の発端となったのは、銀行から違法な手段で盗まれた情報(DVD)だ。違法な手段で入手した証拠は、法廷の前では無効である(筈だ)。この為、同じDVDをドイツ政府から「買わないか。」と問い合わせを受けたデンマークは、「盗品は買わない。」とドイツ政府の申し出を断っている。しかしそんなことはドイツの大蔵大臣には一向に気にならない様子で、「欧州は団結して、リヒテンシュタイン、スイス、モナコ、アンドラなどの節税対策を提供している国に対して、圧力をかける必要がある。」とまで言い出した。この非難を聞いたスイス銀行連盟会長は、ドイツの違法、合法を無視した行動を、上述のようにコメントする事となったのである。

すると今度は3月になってから、スイスの銀行に勤めていた行員が「商売のチャンス」を見て取り、顧客のデータをDVDに焼いて、銀行から情報を盗み出し、またドイツの税務署に売り込む事件が起きている。銀行員が、「銀行からデータを盗むのは違法だが、ドイツ政府相手なら取引が可能で、合法に大金を得て一生遊んで暮らす事ができる。」と考えていただろう事は容易に推測できる。この犯罪をそそのかすドイツ政府の露骨な検挙方法は、かって東ドイツが国民を監視する為に使用していた密告制度と変わりない。果たして民主主義を標榜する国が、そんな方法に頼っていいのだろうか。


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リヒテンシュタインの銀行。ここに口座を持てるのは何時の日か、、。


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Zumwinkel氏宅に押し寄せた報道陣。氏の写真は武士の情けで割愛。

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