受身首相 (20.11.2006)

Grosse Koalition(2大政党による連合政権)が発足して1年が経過した。この機会に行われた世論調査によると国民の78%は、この連立政権がドイツが抱える数多くの問題を解決できるとはもはや期待していない事が明らかになった。別の世論詳細(ARD)によると、国民の61%はこれまでの連立政権の「業績」に不満であるという結果が出ている。

当初、国民はドイツ初の女性首相の誕生という事で、メルケル首相の政治手腕を期待していただけに、これまでの首相の采配に国民はがっかりしている。ドイツの首相のページにも書いたが、メルケル首相には政治家としての経験が浅い。これまでのドイツの首相は、市長、州知事、大臣、そして最後に首相という出生の階段を上って行ったのだが、メルケル首相に党内で出世の階段を上ってきた。皮肉な事にこれが原因で、彼女の支持層は党内で限られており、党内の実力者(州知事など)がかなり幅を利かせている。その結果として、自分の党さえも思い通りに動かすことができないでいる。皆が首相を無視して、自分の言いたいことばかり主張してしまうのである。メルケル首相はこれら千差万別の意見に左右されて、一向に一貫した政策が立てられていない。

いい例がドイツで早急に改革が必要な医療体制だ。ドイツでは国民皆保険に加入している場合、医者の診断、治療費は無料という信じられないシステムを未だに維持している。失業者の場合は、国が保険料を負担するから、国が支出する医療費用は膨大な額面になっている。この支出をカバーするために、ドイツで国民皆保険に加入すると、保険料はべらぼうに高くなる。現在国民皆保険の保険料は、お給料の15%である。例えば給料を4千ユーロもらっている場合、保険料は600ユーロにもなる。しかもこれがすべてではない。労働者が払う分が600ユーロで、被雇用者はさらに600ユーロも国民皆保険に払う義務があり、毎月1200ユーロもの保険料がかかるのである。こうした高い保険料で、保険料を一銭も払わない500万もの失業者とその家族の医療費をなんとかカバーしてきた。

しかし、ドイツでは高齢化社会、少子化が進み、いくら保険料を高くしても、もう支出をカバーする事ができなくなってしまっているのだ。この時代遅れの医療システムを改革しない限り、医療費用は、ドイツ経済発展の歯止めになってしまう。社員を一人雇うだけで、会社は健康保険費用、労働災害保険、所得税、失業保険などもろもろの諸費用を払うことになり、おちおち社員を雇うことができない。そこで首相は(日本のように)金持ちも、貧乏人も国民皆保険に取り込んで、同じ額面を払ってもらおうと提案。しかし、これは連立政権のSPDには我慢がならない。何故、労働者が資本階級と同じ保険費用を払わなければならないのか!そうではなくて、金持ちだけが加入できるプライベート保険を失くして、国民すべを皆保険に取り込めばいいのだ!と主張。しかし、この意見は市場主義経済を主張するCDUには受け入れがたい条件だ。

こうして、延々と自分勝手な意見が、半年以上にわたって国会で交わされた。 その結果、「医療体系は、現状維持。医師、病院への報酬を削る事により、医療費の増大を抑える。」という、中途半端な政策が出来上がった。ドイツ国内の経済団体、雇用者団体、医師団体、保険会社らは、この政府の中途半端な妥協を厳しく批判して、この政策が施工されるならボイコットをすると脅している。こうした政府(首相)のリーダーシップのなさ、誰かに文句を言われるとすぐに主義主張を曲げて妥協してしまう一貫性のなさが、世論調査に反映していはのは間違いない。こうした首相の姿勢を皮肉ってマスコミは、首相をder passiv Kanzler(受身首相)と呼んでいる。


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早くも国民の信頼を失った首相と副首相(左)
          

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