我欲す。しかるも、これは義務ならざるなり。 (21.01.2007)

政治家のインタビューを聞いていると、質問された事と全く違った事を言っている事が多々ある。それどころか、党のインタビューを党の宣伝に使う政治家も多い。こういうちぐはぐなインタビューを見ていると、「政治はわけがわらない。」という印象が生まれてしまう。しかし、ドイツの記者は甘くない。「質問に答えていないじゃないですか。」と鋭く突っ込む。ここで逆切れするとイメージが悪くなるので、相好を崩さずに、またも関係のない回答をして、延々と質問から逃げまくる。この方法を「名人芸」にまで極めた政治家が、Dr. Edmund Stoiber、バイエルン州CSU党の党首だ。

シュトイバー氏の 「わからない事を言う政治家」という地位を不動のものにしたのは、(すでにドイツで伝説となっている)バイエルン州議会でのトランス ラピッド(リニアモーターカー)演説だ。ドイツの最先技術でありながら、ドイツにはトランス ラピッドが走っていない。何度か国会でも導入が議論されたが、費用が高すぎて、採算が取れないので導入の目処が立っていないこの事業。そこで、このトランス ラピッドをミュンヘンに導入すべくシュトイバー氏が州議会で演説を行った。しかし内容は支離滅裂。「ミュンヘン中央駅から10分で!」と、何度も繰り返し、意味の不明な比較をどもりながら取り混ぜた見事な迷演説。普段なら内輪の恥で済んだものだが、あるテレビ局がこの演説をアニメーションを付けてテレビで報道。テレビ局には、「もう1回見たい!」の電話が殺到。その後、テレビ、ラジオ、インターネットでこの迷演説が繰り返し放映され、「シュトイバー氏のトランス ラピッド10分演説」として歴史に名を残すことになった。

その後も、シュトイバー氏の活躍には数限りない。まず、2005年の総選挙後、経済大臣に就任すると言っておきながら土壇場でキャンセル。この党首の気まぐれな行動は、野党だけでなく、党内でも大いに問題になったが、非難は水面下で行われ、声高に党首を非難する声は聞かれなかった。その後、シュトイバー氏は65歳の高齢にもかかわらず、次回も党首として立候補して、2013年までCSUの党首に収まるつもりである事を宣言。この辺りから、党首への非難が水面下で収まらず、公に聞かれるようになる。その中でも反シュトイバー派の旗手は、一介の地方議員に過ぎないPauli女史。今まで誰も怖がって行わない党首批判を堂々と行い、シュトイバー氏の潔い辞任を要求。怒ったシュトイバー氏は部下に命じてPauli女史の私生活を探らせる。しかし党首の嫌がらせに頑として抵抗するPauli女史。その内、マスコミがこの党内での醜い争いを嗅ぎ付けて報道すると、シュトイバー氏の大人気ない行動に市民の非難が集中。風向きが変わったと悟ったシュトイバー氏は、内定を命じた部下を首にして、「部下の勝手な行動で、私は知らなかった。」と言い訳した。

事、ここに至れり、党内は反シュトイバー派が勢力を増し、党内緊急会議が開かれることに。会議前の会見では、「辞める気は毛頭ない。」と意気揚々のシュトイバー氏。しかし、会議は最初の日からかなり荒れた。記者団から党首への再立候補に関して聞かれたシュトイバー氏は、少し自身を無くしたのか、 " Ich will, aber ich muss es nicht."(我欲す。しかるも、これは義務ならざるなり。)と(また)わけのわかならいコメントを行い、新聞のヘッドラインを飾った。
その後も事態は紆余曲折したが、結局、シュトイバー氏は2007年9月の党会議で辞任する事を表明する事になる。恐るべしは女性の一突き。Pauli女史の攻撃さえなければ、シュトイバー氏は間違いなく党首に再任され、2013年まで党首に留まって笑いの種を提供してくれていただろう。


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ドイツ一の迷演説家 Stoiber氏 


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Stoiber氏に止めの一撃を加えたPauli女史。 


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